リンクバジェットとは — 光通信の計算方法と「その光は本当に届くか」の確かめ方

2026.09.04|2026.09.24 更新|技術コラム|潤徳商事株式会社

「カタログでは10km対応。実際の敷設は8km。だから届く」— この判断で進めて、いざ繋いだらリンクが上がらない。あるいは上がっても不安定。光リンクの設計でよくある失敗です。規格上の到達距離は一定の損失を前提にした値であり、実際の経路で届くかどうかはリンクバジェットで確かめます。本稿では計算の手順を、具体的な数字で追いかけます。

リンクバジェットとは

リンクバジェット(パワーバジェット、光パワーバジェットとも呼びます)とは、送信側から受信側までの間に失ってよい光の量のことです。単位は dB で、送信器が出す光の強さと、受信器が受けられる最小の光の強さの差で決まります。

無線通信でも同じ言葉を使い、考え方は共通です。送信側の出力から途中で失われる分を差し引き、受信側の感度を上回るかどうかを確かめます。光ファイバの場合、途中で失われるのはファイバそのものの損失と、コネクタ・融着点での損失です。

結論 — 引き算を2回するだけ

難しい計算ではありません。手順は2ステップです。

  • ① 使える予算を出す:最小送信光出力 −(マイナス)受信感度 = リンクバジェット
  • ② そこから損失を引く:ファイバ損失 + コネクタ損失 + 融着点損失 を差し引く(残りがマージン)

送信側は最小値、受信側は受信感度(受けられる下限)を使うのがポイントです。どちらも仕様書のワーストケース値なので、マージンが 0dB を上回れば計算上は成立します。ジュニパーネットワークスの技術資料も、同じ式と判定基準を示しています。

ただし 0 に近いほど、コネクタの汚れや将来の補修で割り込みやすくなります。当社では、設計段階で 3dB 程度の余裕を残すことをおすすめしています。

計算してみる — 10GBASE-LR で 8km

実際の数字で追ってみます。条件は次のとおりです。

  • モジュール:10GBASE-LR(Cisco SFP-10G-LR のデータシート値:最小送信光出力 −8.2 dBm / 受信感度 −14.4 dBm)
  • 距離:シングルモード 8km(1310nm)
  • 経路:両端の機器接続+パッチパネル2箇所で、コネクタ接続は計6箇所
  • 融着点:2箇所

まず予算を出します。−8.2 −(−14.4)= 6.2 dB。これが失ってよい光の量です。

次に損失を引きます。

  • ファイバ損失:8 km × 0.35 dB/km = 2.8 dB
  • コネクタ損失:6接続 × 0.5 dB = 3.0 dB
  • 融着点損失:2箇所 × 0.1 dB = 0.2 dB
  • 損失合計 = 6.0 dB

6.2 − 6.0 = マージン 0.2 dB。計算上はぎりぎり成立しますが、余裕はほとんどありません。コネクタが1箇所汚れているだけで割り込む水準で、冒頭の「繋いだら不安定」が起きやすい状態です。

10GBASE-LRで8kmのリンクバジェット計算例。最小送信光出力-8.2dBmから受信感度-14.4dBmを引いた6.2dBのバジェットに対し、ファイバ損失2.8dB・コネクタ損失3.0dB・融着点損失0.2dBを消費し、マージンは0.2dB
図:リンクバジェットの計算例(10GBASE-LR / 8km)

見落とされやすいのはコネクタの数

上の例で注目していただきたいのが、コネクタ損失 3.0 dB がファイバ損失 2.8 dB を上回っている点です。8kmという距離があってなお、接続点のほうが多く光を食っています。

1接続あたり約0.5 dBは小さく見えますが、パッチパネルを経由するたびに2箇所ずつ増えていきます。「距離は短いのにリンクが不安定」という症状は、経路上の接続点の多さや汚れが原因になっていることがよくあります。設計時は距離だけでなく、経路図を描いて接続点を数えてください。

マージンが足りないときの対処

  • 接続点を減らす — パッチパネルを1箇所経由しないだけで 2接続・1.0dB 減り、上の例ではマージンが 1.2dB に増えます。
  • 損失を実測する — 1接続 0.5dB は安全側の見積もりです。清掃・点検したうえで光パワーメータなどで実測すると、計算より損失が小さいことも少なくありません。実測値で計算し直せば、余裕が見えてくる場合があります。
  • 長距離クラスは上限側とセットで考える — 10GBASE-ER(Cisco SFP-10G-ER:最小送信光出力 −4.7dBm / 受信感度 −15.8dBm)ならバジェットは 11.1dB あります。ただし 8km 程度では受光過大の確認が必要で、減衰器を入れるとそのぶん余裕は減ります。判定方法は「光アッテネータ(減衰器)はいつ必要か」で解説しています。

波長別の損失値 — 覚えておくべき3つ

ファイバ損失は波長によって変わります。目安は次のとおりです。

  • 850nm(マルチモード):約 3.0 dB/km — 損失が大きいぶん、短距離専用です
  • 1310nm(シングルモード):約 0.35 dB/km — 10km級の標準
  • 1550nm(シングルモード):約 0.22 dB/km — 最も損失が小さく、40km以上の長距離向け

波長ごとの使い分けは「光トランシーバの波長早見表」にまとめています。

長距離では分散も効いてくる

40kmを超えるような長距離では、光の強さ(パワーバジェット)だけでなく波長分散も検討が必要になります。光には波長ごとにわずかな速度差があり、距離が延びるほどパルスの波形が広がって、隣のビットと重なりエラーの原因になります。

ERやZRといった長距離モジュールには分散耐力の仕様値が定められていますので、長距離を検討される場合は仕様書の分散ペナルティも併せてご確認ください。SFP-10G-ER(40km)やSFP-10G-ZR(80km)が該当します。

強すぎてもいけない — 上限側の確認

バジェットは足りているかだけでなく、過剰でないかも確認します。長距離用モジュールを短い区間で使うと、受信側の上限(オーバーロード)を超えて逆にエラーが出ます。10G の SR・LR は仕様上この心配がありませんが、ER は 5dB、ZR は 11dB の損失が伝送路に必要で、足りなければ光アッテネータ(減衰器)で補います。計算方法と Cisco が指定する減衰量は「光アッテネータ(減衰器)はいつ必要か」に、受信器の仕組みは「光レシーバの選定ガイド」にまとめています。

計算したら、最後は実測で確かめる

設計値の確認は計算でできますが、実際に届いている光はDDM(デジタル診断モニタリング)で読み取れます。スイッチのコマンドでRX Powerを確認し、受信感度に対して十分な余裕があるかを見てください。

運用開始時の値を記録しておくと、後から比較できます。受信光レベルが少しずつ下がっていく場合は、コネクタの汚れやファイバの劣化が疑われます — 断線してから慌てるのではなく、予兆の段階で気づけるのがDDMの価値です。使い方は「DDM活用入門」で解説しています。

まとめ

  • リンクバジェットは最小送信光出力 − 受信感度。仕様書のワーストケース値を使う。
  • そこからファイバ損失+コネクタ損失+融着点損失を引いた残りがマージン。0dB を上回れば計算上は成立、設計では3dB 程度の余裕を残したい。
  • 距離より接続点の数が効くことが多い。経路図で数える。
  • 長距離モジュールは上限側も確認。最後は DDMで実測し、初期値を記録しておく。

VRENの光トランシーバはDDMに対応しています。型番の適合確認とあわせて、「この距離・この経路で光が足りるか」といったリンク設計のご相談も無料で承ります。導入前の検証用サンプルもご提供しています。

参考資料

本記事は一般的な技術情報の提供を目的としており、特定の構成での動作を保証するものではありません。送信光出力・受信感度は各モジュールの仕様書の値をご確認ください。損失値は代表的な目安であり、実際の値は使用するファイバ・コネクタ・施工品質により異なります。2026年9月24日:計算例の送信光出力をメーカー公開のデータシート値に合わせて見直しました。