「カタログでは10km対応。実際の敷設は8km。だから届く」— この判断で進めて、いざ繋いだらリンクが上がらない。あるいは上がっても不安定。光リンクの設計でよくある失敗です。規格上の到達距離は一定の損失を前提にした値であり、実際の経路で届くかどうかはリンクバジェットで確かめます。本稿では計算の手順を、具体的な数字で追いかけます。
リンクバジェット(パワーバジェット、光パワーバジェットとも呼びます)とは、送信側から受信側までの間に失ってよい光の量のことです。単位は dB で、送信器が出す光の強さと、受信器が受けられる最小の光の強さの差で決まります。
無線通信でも同じ言葉を使い、考え方は共通です。送信側の出力から途中で失われる分を差し引き、受信側の感度を上回るかどうかを確かめます。光ファイバの場合、途中で失われるのはファイバそのものの損失と、コネクタ・融着点での損失です。
難しい計算ではありません。手順は2ステップです。
送信側は最小値、受信側は受信感度(受けられる下限)を使うのがポイントです。どちらも仕様書のワーストケース値なので、マージンが 0dB を上回れば計算上は成立します。ジュニパーネットワークスの技術資料も、同じ式と判定基準を示しています。
ただし 0 に近いほど、コネクタの汚れや将来の補修で割り込みやすくなります。当社では、設計段階で 3dB 程度の余裕を残すことをおすすめしています。
実際の数字で追ってみます。条件は次のとおりです。
まず予算を出します。−8.2 −(−14.4)= 6.2 dB。これが失ってよい光の量です。
次に損失を引きます。
6.2 − 6.0 = マージン 0.2 dB。計算上はぎりぎり成立しますが、余裕はほとんどありません。コネクタが1箇所汚れているだけで割り込む水準で、冒頭の「繋いだら不安定」が起きやすい状態です。
上の例で注目していただきたいのが、コネクタ損失 3.0 dB がファイバ損失 2.8 dB を上回っている点です。8kmという距離があってなお、接続点のほうが多く光を食っています。
1接続あたり約0.5 dBは小さく見えますが、パッチパネルを経由するたびに2箇所ずつ増えていきます。「距離は短いのにリンクが不安定」という症状は、経路上の接続点の多さや汚れが原因になっていることがよくあります。設計時は距離だけでなく、経路図を描いて接続点を数えてください。
ファイバ損失は波長によって変わります。目安は次のとおりです。
波長ごとの使い分けは「光トランシーバの波長早見表」にまとめています。
40kmを超えるような長距離では、光の強さ(パワーバジェット)だけでなく波長分散も検討が必要になります。光には波長ごとにわずかな速度差があり、距離が延びるほどパルスの波形が広がって、隣のビットと重なりエラーの原因になります。
ERやZRといった長距離モジュールには分散耐力の仕様値が定められていますので、長距離を検討される場合は仕様書の分散ペナルティも併せてご確認ください。SFP-10G-ER(40km)やSFP-10G-ZR(80km)が該当します。
バジェットは足りているかだけでなく、過剰でないかも確認します。長距離用モジュールを短い区間で使うと、受信側の上限(オーバーロード)を超えて逆にエラーが出ます。10G の SR・LR は仕様上この心配がありませんが、ER は 5dB、ZR は 11dB の損失が伝送路に必要で、足りなければ光アッテネータ(減衰器)で補います。計算方法と Cisco が指定する減衰量は「光アッテネータ(減衰器)はいつ必要か」に、受信器の仕組みは「光レシーバの選定ガイド」にまとめています。
設計値の確認は計算でできますが、実際に届いている光はDDM(デジタル診断モニタリング)で読み取れます。スイッチのコマンドでRX Powerを確認し、受信感度に対して十分な余裕があるかを見てください。
運用開始時の値を記録しておくと、後から比較できます。受信光レベルが少しずつ下がっていく場合は、コネクタの汚れやファイバの劣化が疑われます — 断線してから慌てるのではなく、予兆の段階で気づけるのがDDMの価値です。使い方は「DDM活用入門」で解説しています。
VRENの光トランシーバはDDMに対応しています。型番の適合確認とあわせて、「この距離・この経路で光が足りるか」といったリンク設計のご相談も無料で承ります。導入前の検証用サンプルもご提供しています。