リンクバジェットの計算では「光が足りるか」を確かめました。本稿はその反対側、「光が強すぎないか」の話です。40km・80km 向けの長距離モジュールを短い区間で使うと、受信側に光が入りすぎて、エラーやリンクの不安定を招きます。このとき使うのが光アッテネータ(減衰器)です。
受信器には、正しく受けられる光の強さに下限と上限があります。下限が受信感度、上限が受信上限(オーバーロード)です。上限を超えると受信素子が飽和して信号の波形が崩れ、ビット誤りが増えます。リンクは上がるのにエラーカウンタが増える、リンクが断続的に落ちる、といった形で表れます。
長距離用のモジュールは、遠くまで届けるために送信光出力が大きく、受信側も弱い光を拾える高感度の設計です。たとえば ZR は −24dBm という弱い光まで受けられる一方、受信上限は −7dBm と低めです。距離が短いと、この上限を簡単に超えてしまいます。
送信光出力と受信範囲から、伝送路に最低限必要な損失と許容できる最大損失が決まります。Cisco のデータシート値で計算すると次のとおりです。
| 規格(Cisco 型番) | 送信光出力 | 受信範囲(感度〜上限) | 必要な最小損失 | 許容最大損失 |
|---|---|---|---|---|
| 10GBASE-SR SFP-10G-SR | −7.3〜−1.2 dBm | −9.9〜−1.0 dBm | 不要 | 2.6 dB |
| 10GBASE-LR SFP-10G-LR | −8.2〜+0.5 dBm | −14.4〜+0.5 dBm | 不要 | 6.2 dB |
| 10GBASE-ER SFP-10G-ER | −4.7〜+4.0 dBm | −15.8〜−1.0 dBm | 5.0 dB | 11.1 dB |
| 10G ZR SFP-10G-ZR | 0〜+4.0 dBm | −24〜−7 dBm | 11.0 dB | 24.0 dB |
| 25GBASE-ER SFP-25G-ER-I | −3.0〜+6.0 dBm | −21.0〜−4.0 dBm | 10.0 dB | 18.0 dB |
「必要な最小損失」は最大送信光出力 − 受信上限、「許容最大損失」は最小送信光出力 − 受信感度で求めています。伝送路の損失がこの範囲に収まれば、送信光出力が仕様の上限・下限のどちらに振れても受信できる計算です。
SR と LR は必要な最小損失が 0 以下、つまりパッチコードで直結しても受光過大にならない設計です。一方、ER には 5dB、ZR には 11dB の損失が必要です。1550nm のシングルモードファイバは損失が小さく(目安 0.22dB/km)、ZR ならおよそ 50km、ER でも 20km 強のファイバでようやくこの損失に届きます。
25GBASE-ER(1310nm 帯)も、必要な最小損失が 10dB あります。1310nm のファイバ損失(目安 0.35dB/km)で換算すると約 29km 分です。なお Cisco の SFP-25G-ER-I は、25G で使う際にホスト側の RS-FEC が必須とされています。
Cisco は 10GBASE SFP+ のデータシートで、距離別の減衰器を次のように指定しています。
これはファイバの損失だけを前提にした目安です。実際の経路にパッチパネルや融着点が多ければ、そのぶん損失が増え、必要な減衰量は小さくなります。距離だけで機械的に決めず、次のように計算し、最後は実測で確かめるのが確実です。
80km 用の 10G ZR を、15km の拠点間で使うケースです。上限側を確認するときは、損失を少なめに見積もるのがポイントです。損失が小さいほど、光は強く届くからです。
最大送信光出力 +4.0dBm から 3.4dB を引くと、受信側には最大 +0.6dBm が届きます。受信上限の −7dBm を 7.6dB 上回るので、7.6dB 以上の減衰が必要です。手配しやすい値では 10dB を選びます。Cisco の目安(5〜25km は 10dB)とも一致します。
続けて、減衰器を入れた状態で下限側も確認します。今度は損失を多めに見積もります。
最小送信光出力 0dBm から 15.75dB を引くと −15.75dBm。受信感度 −24dBm に対して約 8dB の余裕があり、上限・下限の両方を満たします。
自機の送信を自機の受信へ戻すループバック試験は、伝送路の損失がほぼゼロの状態です。表のとおり ER・ZR では必要な損失を満たさないため、ループバックでも減衰器を入れてから試験します。Cisco も ZR について、受信パワーを −7dBm 未満に保つよう案内しています。
最後は実測です。スイッチの DDM(デジタル診断モニタリング)で受信光レベル(Rx Power)を読み、受信範囲に収まっているかを確認します。上限に近ければ減衰量を増やし、感度に近ければ減らします。読み方は「DDM活用入門」で解説しています。
VREN では SFP-10G-ER、SFP-10G-ZR、SFP-25G-ER-L などの長距離モジュールをご用意しています。「この距離なら減衰器は何 dB か」といったリンク設計のご相談も無料で承ります。